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2018年11月開催の国際度量衡総会の概要
キログラムなど4単位の定義改定を予定
国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 計量普及センター 国際計量室長 齋藤則生





2018年11月開催の国際度量衡総会の概要 キログラムなど4単位の定義改定を予定 国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 計量普及センター 国際計量室長 齋藤則生

(タイトル)
2018年11月開催される国際度量衡総会の概要 キログラムなど4単位の定義改定を予定
国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 計量普及センター 国際計量室長 齋藤則生

(本文)

 今年開催される第26回国際度量衡総会は歴史的なイベントである。それは、質量の単位キログラムを含む4つのSI基本単位の定義を同時に改定する決議を予定しているからである。キログラムは130年もの間、一度も定義が改定されず、国際キログラム原器が単位の定義であった。このキログラムの定義を、国際キログラム原器から基礎物理定数に基づいた普遍的な定義に改定する。この改定により、すべての基本単位が普遍的な物理定数による定義となり、原器から単位が切り離される。このような、計量分野および科学にとって非常に重要な変化が訪れようとしている。ここではその第26回国際度量衡総会について、概要を紹介する。

1. 国際度量衡総会の位置づけ

図1 メートル条約の組織


 国際度量衡総会(CGPM)はメートル条約によって組織された最高決定機関である。メートル条約は、1875年に17か国の代表により締結され、2018年8月7日現在、加盟国が60、準加盟国・経済圏が42となっている。このメートル条約を維持する組織は図1のように構成されている。国際度量衡総会(CGPM)は6年を超えない頻度で開催、と条約に定められているが、近年は度量衡の急速な進展や交通網の発達を踏まえ例外を除き4年ごとに開催されている。今年がこの4年ごとの開催年にあたる。CGPMの直下にある組織は、18名の委員から構成される国際度量衡委員会(CIPM)であり、CGPMの決議事項に関する代執行機関となっている。委員選任に係わるプロセスは、前回の第25回CGPMの決議2において大幅に見直され、毎回のCGPMにおいて全委員の改選を行うことになった。ただし、条約によりそのうちの半数は再任されなければならない。日本からは、産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)長の臼田が、2012年にCIPM委員に着任し、前回のCGPMにおいて再任された。CIPMの下には、10の諮問委員会(CC)が設置されている。CCは国家計量標準機関(NMI)の専門家によって構成され、国際的な標準に関する課題を分野ごとに検討している。これらの組織の事務局と国際的な研究課題を直接担っているのが国際度量衡局(BIPM)であり、CIPMの監督下に置かれている。

2. 第26回CGPMの概要
 CGPMは、前述のようにメートル条約の最高決定機関であり、すべての加盟国、準加盟国・経済圏が出席する(但し投票権は加盟国のみに与えられる)。今年開催される第26回CGPMは、11月13日(火)から16日(金)の日程で、パリ郊外のベルサイユにて行われる。日本の参加団はまだ決まっていないが、前回は、経済産業省、在フランス大使館、NMIJからの参加者により構成された。CGPMで議論する内容は事前に公表され、今回は次の5つの決議案が議論される。
A. 国際単位系(SI)の改定について
B. 時系の定義について
C. BIPMの目標について
D. 2020年~2023年BIPMの負担金について
E. 加盟国の滞納及び条約からの除外プロセスについて

表1 CGPMの暫定タイムスケジュール

日付(2018年)         内容
11月12日(月)     予算案の非公式会議(検討中)
11月13日(火)     開会、BIPMの活動報告、決議案Bの説明、等
11月14日(水)      BIPMの活動計画、決議案C、D、Eの説明、等
              加盟分担金臨時委員会
11月15日(木)     加盟分担金臨時委員会報告、各CC報告、等
11月16日(金)午前  定義改定にかかる公開セッション
              関係CCの報告および講演、決議案Aの採決
              (参加は報道関係者他招待ベース)
11月16日(金)午後  決議案B~Eの採決、CIPMの選任

 CGPMの暫定タイムスケジュールを表1に示す。CGPM開催の前日にBIPM事業計画及び関連負担金に関する非公式会議が計画されている。この会議は議論を効果的に進めるため、出席者が限定される。また、CGPMの最終日午前に公開セッションが計画され、ここでは定義改定に係わる決議案Aの採決が行われる。採決は、通常では加盟・準加盟のメンバーのみのクローズで行われるが、定義改定は世界の注目を集めているため、広報活動を兼ね、例外的に公開で行われる。そして最終日午後には残りの決議案B~Eの採決とCIPMの選任が行われる。

3. 決議案の概要

A. 国際単位系(SI)の改定について
 決議案Aは、SIの7つの基本単位のうち質量の単位キログラム(kg)、電流の単位アンペア(A)、熱力学温度の単位ケルビン(K)、物質量の単位モル(mol)の4つの基本単位について定義を同時に改定するものである。これらの基本単位の現定義と定義改定案を表2に示す。

 CGPMの暫定タイムスケジュールを表1に示す。CGPM開催の前日にBIPM事業計画及び関連負担金に関する非公式会議が計画されている。この会議は議論を効果的に進めるため、出席者が限定される。また、CGPMの最終日午前に公開セッションが計画され、ここでは定義改定に係わる決議案Aの採決が行われる。採決は、通常では加盟・準加盟のメンバーのみのクローズで行われるが、定義改定は世界の注目を集めているため、広報活動を兼ね、例外的に公開で行われる。そして最終日午後には残りの決議案B~Eの採決とCIPMの選任が行われる。

3. 決議案の概要

A. 国際単位系(SI)の改定について
決議案Aは、SIの7つの基本単位のうち質量の単位キログラム(kg)、電流の単位アンペア(A)、熱力学温度の単位ケルビン(K)、物質量の単位モル(mol)の4つの基本単位について定義を同時に改定するものである。これらの基本単位の現定義と定義改定案を表2に示す。

表2 国際単位系(SI)の定義の新旧。現定義は「国際単位系(SI)」(翻訳:産業技術総合研究所計量標準総合センター、出版:日本規格協会、2007年)から抜粋。

質量 キログラム (kg)
現定義
キログラムは質量の単位であって、単位の大きさは国際キログラム原器の質量に等しい。
改定後の定義案
キログラムは、プランク定数 h を正確に6.626 070 15 × 10−34 J sと定めることによって設定される。

電流 アンペア (A)
現定義
アンペアは、真空中に 1 メートルの間隔で平行に配置された無限に小さい円形断面積を有する無限に長い二本の直線状導体のそれぞれを流れ、これらの導体の長さ 1 メートルにつき 2×10−7ニュートンの力を及ぼし合う一定の電流である。
改定後の定義案
アンペアは、電気素量 e を正確に1.602 176 634 × 10−19 Cと定めることによって設定される。

熱力学温度 ケルビン (K)
現定義
熱力学温度の単位、ケルビンは、水の三重点の熱力学温度の 1/273.16である。
改定後の定義案
ケルビンは、ボルツマン定数 k を正確に1.380 649 × 10−23 J/Kと定めることによって設定される。

物質量 モル (mol)
現定義
モルは、0.012 キログラムの炭素 12 の中に存在する原子の数に等しい数の要素粒子を含む系の物質量であり、単位の記号は mol である。
改定後の定義案
1モルは正確に6.022 140 76 × 1023 の要素粒子を含む。

 表2に示したように、キログラムの定義は国際キログラム原器からプランク定数に、アンペアの定義は2本の直線状導体間の力から電気素量に、ケルビンの定義は水の3重点からボルツマン定数に、モルの定義は炭素12グラム中の原子の数からアボガドロ数に基づく定義に改定される。すなわち、これらの量の定義が普遍的な基礎物理定数に基づく定義に置き換わる。この中でキログラムの改定は、国際キログラム原器という現在唯一の原器によって単位が実現されているものが、基礎物理定数によって定義され、すべての単位の定義が原器から切り離され、どこでも実現可能な普遍的な定義となる。今回の国際度量衡総会で定義改定が決議されると、2019年5月20日の世界計量記念日に新しい定義が施行される。

B. 時系の定義について
 決議案Bは、複数の定義がある時系について関係機関への取組を勧告している。国際原子時(TAI)は原子時計により現示されている連続時系であり、TAIに基いて、常用時の基礎として推奨されている協定世界時(UTC)が構築される。UTCとTAIとは整数秒のみ異なる。一方、地球の自転によって定義される世界時(UT1)がある。地球の自転は揺らいでいるため、UT1とUTCとのずれが生じ、そのずれを補正するためにうるう秒が過去に挿入されてきた。これらを考慮し、
・現在および将来の利用者コミュニティのニーズを満たすため、現在のUT1-UTCの最大許容偏差について考慮するという観点から、あらゆる連合及び組織が、これらの定義について検討し、各種基準時系、それらの現示と普及に関する共通の理解を育むこと
・UT1-UTCの予測精度、および、普及方法の向上に取り組むこと
を勧告するものである。

C. BIPMの目標について
 決議案Cは、BIPMの目標を提案するものであり、この目標に対してBIPMの事業計画が立てられる。BIPMの目標を要約すると、BIPMは世界の計量コミュニティを代表し,標準の同等性確保のために国際比較を提供し、世界の計量システムのコーディネータとしての役割を果たすことである。さらに、これらの目標の達成を補完するために、能力育成や知識移転に取り組むことを挙げている。

D. 2020年~2023年BIPMの負担金について
 決議案Dは、BIPMの事業計画に基づいた今後4年間の運営経費を決議し、メートル条約の各加盟国、準加盟国・経済圏の分担金を決定することである。BIPMの負担金は2016年から2019年までの間一定を保っているが、インフレや人件費の増加を考慮し、毎年1%の増額を提案している。

E. 加盟国の滞納及び条約からの除外プロセスについて
 決議案Eは、加盟国が分担金の納付を滞納した場合の条約からの除外プロセスや再加入の条件を明確にして、確認するものである。

4. 国際単位系(SI)改定の経緯

 1889年に長さと質量の単位が第1回CGPMにて決議され、メートル原器とキログラム原器が配布された。原器による単位の定義は、原器の安定性や紛失のリスクなどの問題が指摘され、原器によらない単位の定義が求められてきた。その実現のため、基礎物理定数を用いて単位を実現する研究が遂行された。その結果、メートルの単位は1960年に開催された第11回CGPMにおいて、国際メートル原器から真空中における放射波長に基づく定義に改定され、その後、光の速さに基づく定義にさらに改定されている。一方、キログラムについては、国際キログラム原器より安定してキログラムを実現することが困難であったため、定義の改定がなされてこなかった。ところが1989年にBIPMに保管している国際キログラム原器と各国で保管されているキログラム原器との比較を行ったところ、1946年に比較した時と比べてばらつきが大きくなっていた。そのため、国際キログラム原器の安定性の限界が指摘され、基礎物理定数によるキログラムを実現する研究が加速した。その研究の進展により、前回の第25回CGPMにおいて、2018年にSI定義を改定することについて奨励する決議がなされた。その後、次の会議等によってSI定義改定への手続きが進んだ。
・2017年7月:科学技術データ委員会(CODATA)に基礎物理定数データの報告
・2017年9月(CODATA基礎定数作業部会):基礎物理定数の2017年特別調整値を決定
・2017年9月(単位諮問委員会(CCU)):CIPMに定義改定を推奨することを決定
・2017年10月(第106回CIPM会議):第26回CGPMにおけるSI定義改定の決議案を承認

5.おわりに

 第26回CGPMは、SI定義の改定という、計量・計測分野にとって歴史的な決議を予定している。決議案が採択されると、2019年5月20日の世界計量記念日に新しい定義が施行される。新しい定義が施行されても、我々の身の回りで測定値が変化するということは起きないので、そのような心配は無用である。なぜなら現在の標準の値を用いて基礎物理定数を測定し決定したからである。単位の新しい定義は、今まで標準がなかった微小質量標準などに応用され、イノベーションに大きく寄与することが期待されている。

第26回CGPMの詳しい情報については次のサイトを参照下さい。
https://www.bipm.org/en/cgpm-2018/
SI定義改定に関する情報については次のサイトを参照下さい。
https://www.nmij.jp/transport.html

2018年11月開催の国際度量衡総会の概要 キログラムなど4単位の定義改定を予定 国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 計量普及センター 国際計量室長 齋藤則生

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